【はじめに】
「クリエイティブオフィス」とは、創造性やイノベーションを促進するためにデザインされたオフィス環境を指します。
シェアオフィスとして企画開発した「PREMIUM OFFICE シリーズ」の各拠点は、見た目がおしゃれなデザイナーズオフィス、ということだけではなく、おしゃれを超えたクリエイティブなオフィス環境をご提供していきたいと考えています。
そこで、以下に「クリエイティブオフィス」についてまとめてみました。
目次
Ⅰ.クリエイティブオフィスの概念
社員のアイデアや創造性を引き出すためのオフィスデザインが「クリエイティブオフィス」です。
これは、2007年ごろに経済産業省が主導して提唱された概念で、産業界と政府が、世界のGAFAのような企業が日本から生まれづらくなっている状況に危機感を持ち、世界と競争していける企業が生れる環境づくりの一環として、国と産業界全体で協力して進めていく国家戦略的なアプローチとして位置づけられました。
- 経済産業省主導の戦略的アプローチ
2007年頃に提唱されたオフィスデザインの概念で、社員の創造性を引き出すためのオフィスを普及させようという、経済産業省主体の取り組みです。 - クリエイティブオフィスの目的
クリエイティブオフィスの目的は「知識創造行動」の促進です。
・組織の創造性と生産性の向上を目指すこと。
・SECIモデルを通じた知識創造行動を促進すること。 - SECIモデルに基づく12の知識創造行動
社員の創造性向上のために、「SECI」に基づく12の知識創造行動が生れやすいオフィスの導入が必要とされて提唱されました。SECIとは、以下のようなものです。(1)Socialization (社会化)
個人が他のメンバーとの対話や経験を通じて、知識を共有し、社会全体で共有される知識に変換されるプロセス。(2)Externalization (外化)
個人が内部で持っていた知識を言葉や記述に変換し、共有可能な形に変えるプロセス。個人の経験を形式化して外部に表現すること。(3)Combination (結合)
複数の異なる知識や情報を組み合わせ、新たな洞察や理解を生み出すプロセス。既存の情報を統合し、新たな知識を形成する。(4)Internalization (内在化)
外部から得た知識や情報を個人が理解し、自身の経験や知識として取り入れ、内部で利用可能な形に変換するプロセス。外部の知識が個人の内部に取り込まれる。 - クリエイティブオフィスの期待される効果
期待される効果は、新アイデアの創出、仕事の効率化、社員のモチベーション向上、異なる業務知識の共有などです。 - クリエイティブオフィスを実現するための方法
空間設計、デスク配置、ICTツールの活用、柔軟な働き方への対応等が有効とされています。
また、社員への理解と意義の説明も必要です。このように、クリエイティブオフィスは、GAFAのようなユニコーン企業が日本からも生まれて欲しい、そのためには、従来の常識に囚われない自由な発想の新しいビジネスが次々にうまれるようなオフィス環境が必要だという考え方から提唱された、新時代のワークプレイスの概念と言えます。
ご参考に「ニューオフィス推進協会」のサイトをご覧いただくといいでしょう。
Ⅱ.クリエイティブオフィスのメリット
クリエイティブオフィスのメリットは次のようなものです。
新アイデアの促進
オープンな環境によって、異なる部署やチームとの交流が新アイデアの生成に寄与します。社員たちが自由にコミュニケーションをとりやすくなり、これが新しい発想の源となります。特に、フリーアドレスやオープンスペースがコミュニケーションを円滑にサポートしています。効率的なコミュニケーション
フリーアドレスやオープンスペースが円滑なコミュニケーションをサポートし、部署間やチーム間の連携が促進されます。社員たちは気軽に相互作用し、情報やアイデアの交換がスムーズに行われます。知識の共有
部署や業務領域を超えた多様な交流が知識共有を促進します。クリエイティブオフィスでは、従来の日本企業にありがちな縦割り型組織の壁を越えて、異なる部門間、チーム間のコミュニケーションが奨励され、それが新しいアイデアやベストプラクティスの創出と共有につながります。社員のモチベーション向上
刺激的な環境や異なるバックグラウンドを持つ同僚との交流により、社員のモチベーションが向上します。これがさらに創造性を刺激し、新しいアイデアやプロジェクトに取り組む原動力となります。柔軟で多様な働き方の促進
フリーアドレスやICTツールの活用により、社員たちは柔軟に働くことができ、テレワークも容易になります。これがワークライフバランスの向上にも寄与します。
Ⅲ.クリエイティブオフィスのデメリット
いいことづくめのようですが、クリエイティブオフィスのデメリットもゼロではありません。
プライバシーの喪失
オープンな環境は、集中作業スペースの制限につながり、社員たちの個人的な空間を減少させ、プライバシーの喪失から、必要な集中力や落ち着きが損なわれる可能性があります。騒音や集中力の低下
オープンスペースでは、他人の活動音や雑踏感等が増加し、これが作業効率や集中力に悪影響を及ぼす可能性があります。コミュニケーション過多
クリエイティブオフィスの開かれた環境では、コミュニケーションが増加しすぎて、作業に集中しづらい状況が生まれることがあります。これにより、個々の業務に専念することが難しくなる懸念があります。異なる作業スタイルへの対応の困難性
クリエイティブオフィスにおいても、個々人の性格などにより、自分の好きな働きやすさとは異なる作業スタイルの部分が生れます。これに無理に合わせようとすると、かえって作業の集中力が落ちたり、本来の目的である自由な発想が生まれづらくなってしまうため、個々の好みや作業スタイルに柔軟に対応するような多様性をもった空間創りの工夫も必要です。混乱や情報の不足
オープンで情報が自由に行き交う環境では、逆に情報が混乱しやすく、必要な情報が不足することがあります。これが、逆に業務の円滑な進行を阻害する懸念もがあります。このように、クリエイティブオフィスにも、メリットとの裏腹で、デメリットがないわけではありませんので、メリットとデメリットの両方を考慮して、自社に合う形のバランスのいいワークプレイスの在り方を研究しながら導入する必要があります。
また、一度導入したら終わり、ではなく、問題点が見えてきたら、当初の形にこだわらずに柔軟に変えていくという気持ちで、継続的に取り組んでいくということも必要でしょう。
Ⅳ.クリエイティブオフィスとデザイナーズオフィス
クリエイティブオフィスの概念が明確化される以前には、普通のオフィスと異なる個性的でお洒落な内装のオフィスは「デザイナーズオフィス」という形でひろまりつつありました。
この2つは共通点もありますが、異なる概念のため、以下に整理しておきます。
- クリエイティブオフィス
■目的~社員の創造性やアイデアの共有を重視
クリエイティブオフィスは、主に社員たちの創造性を引き出し、アイデアの共有を促進することが重要視されています。ここでは新しいプロジェクトやイノベーションを生み出すために、クリエイティブなアイデアを大切にしています。■配置~フリーアドレスやオープンスペース等
クリエイティブオフィスでは、自由なコミュニケーションとアイデアの交流を促進するために、フリーアドレスやオープンスペースが一般的に配置されています。■設備~ ミーティングスペースやコラボ用具、フレキシブルな作業環境が整備。
必要なツールや環境が整備され、ミーティングや協力作業がスムーズに進むようになっています。■コミュニケーション~アイデアや知識の共有がしやすい環境。
クリエイティブオフィスでは、社員同士がアイデアや知識を積極的に共有できる環境が整えられています。 - デザイナーズオフィス
■目的~ビジュアルデザインに重点を置き、美的な要素やデザインを強調
デザイナーズオフィスでは、主にビジュアルデザインに焦点を当て、美的な要素やデザインの強調が重要視されています。ここではオフィス全体がアートのような雰囲気に包まれ、視覚的な美しさが重要です。
■配置~オフィス全体が美的な要素で装飾され、独自性が一般的
デザイナーズオフィスでは、オフィス全体が美的なデザインで飾られ独創的な要素が配置されます。
■設備~デザインにこだわった家具やインテリア、クリエイティブな空間
美的価値を重視した家具やインテリア、クリエイティブな空間が整備されています。
■コミュニケーション~美的価値や独自性が強調され、デザイナーの個性が魅力
デザイナーズオフィスでは、コミュニケーションを大切にしつつも、美的な価値や個性が強調され、デザイナー自身のアートやデザインプロセスが魅力とされます。 - 共通点
いずれも、従来のようなオフィスの固定的な内装スタイルにはとらわれずに、柔軟性を重視し、リラックスできるイメージや、コミュニケーションの促進と異なる部署の交流が促進されやすい空間になるように工夫されています。 - 異なる点
クリエイティブオフィスは主に新しいアイデアやイノベーションの生み出しに焦点を当てています。
一方、デザイナーズオフィスでは美的価値やデザインの強調が特に重要とされています。
しかし、クリエイティブオフィスの内装の方向性として、リラックスしやすくアイデアが生れやすいインテリアを採用する結果、見た目の内装デザインだけをとりあげてみると、デザイナーズオフィスのインテリア空間となっているケースが大半です。そういう意味では、クリエイティブオフィスの構築手段の一つとして、内装のビジュアル面に、デザイナーズオフィスを取り入れることも有効性が高い、ということかと思いますが、逆に、インテリアの見た目をデザイナーズオフィスにするだけで、クリエイティブオフィスの本来の目的、効果を十分に発揮できるとは限らないということでもあります。
Ⅴ.クリエイティブオフィスとセットアップオフィス
1.ターンキー物件としてのセットアップオフィスの人気の高まり
近年、急速に人気を増しているオフィスの形態に「セットアップオフィス」があります。
入居して低コストかつ短期間でビジネスをスタートできる「ターンキー物件」として「居抜きオフィス」というものがありましたが、こちらは、前テナントの退去時の諸事情で、たまたま「居抜き」になるという物件です。
しかし、この「居抜きオフィス」と違って、貸主側が意図的にオフィス内装設備を予めセットする形態の「セットアップオフィス」も近年、注目が高まっています。
2.クリエイティブオフィスの要素がニューノーマルに
最近のセットアップオフィスの内装設備で注目すべきことは、コロナ禍と働き方改革で変化した「ニューノーマル」なオフィス設備を設置している物件が増えつつあるという点です。
特に、その内容は「クリエイティブオフィス」に必要な要件となる要素と多く重なっており、ターンキー物件を好むテナント層の多くが、スタートアップやベンチャー、IT系企業と言った、これから急成長を目指す企業が多い傾向にあることから、「クリエイティブオフィス」の要素を感じるオフィスに魅力を感じやすいという理由で、供給する側も積極的にこうした設備を取り入れているものと思われます。
3.最近人気のセットアップ設備
具体的には、下記のような設備をセットアップした物件等がみられます。
①コミュニケーションルームやカフェラウンジといったレストエリア
②「ファミレス席」と呼ばれる、ミーティングエリア
③デザイナーズ内装
④個人用ブース(テレカンブース等も含む)
④は直接はクリエイティブオフィスとしての要件は薄いように感じられるかもしれませんが、こうした設備を同じオフィスフロア内に設置することは、「集中とリラックス」を交互に簡単に移動しやすいオフィス、という点でクリエイティブオフィスの要件と重なります。
また、個人用ブースを「テレカンブース」にした場合は、個人のワークスペースというよりは、気軽に外部の人と電話でなくオンラインミーティングしやすくなるという、コミュニケーション促進スペースとなり、これもクリエイティブオフィスの要件と言えます。
Ⅵ.クリエイティブオフィスと脳科学
最後に、脳科学における「デフォルトモードネットワーク」とクリエイティブオフィスの関係:について触れておきます。オフィス環境をクリエイティブオフィスにする際にどうすればよいか悩んだら、脳科学に基づいて考えていくと答えが見えてきやすくなると思います。
- デフォルトモードネットワーク(DMN)とは
■デフォルトモードネットワーク(DMN)
脳科学において、静かでリラックスした状態や自己関連の思考に関与する脳内のネットワークの仕組みです。脳がタスクをこなす際には非活性化され、意識的な思考とは異なるネットワークです。
車でいえば、アイドリングの言うな状態で、ぼーっとしている時ほど、無意識のうちにDMNが活性化し、脳内に蓄積された過去の経験や知識が活発に脳内を駆け巡るような状態になるとされています。■ クリエイティブ思考との関連
DMNはクリエイティブな思考やアイデアの生成に重要な役割を果たします。脳がリラックスした状態であるDMNが活性化されることで、意識的に何かに集中して作業している時よりも、自然に異なるアイデアや連想が生まれやすくなります。
古代のアルキメデスがお風呂で発見した原理のように、リラックスした状態で突然アイデアが浮かんだ逸話などが、このDMNの効果も関係していたのではと考えられます。■ 外部刺激とのバランス
DMNは、ぼーっとリラックスしている状態、あるいは、散歩しているような状態の方が活性化されやすいメカニズムです。クリエイティブなプロセスでは、外部からの刺激が制限された自由な発想が重要であり、適度な外部刺激を受けつつ、内向的思考ができるようなバランスのある時間があることが有効です。 - クリエイティブオフィスとDMNの関係
■ 環境の影響
クリエイティブオフィスのオープンで刺激的な環境は、社員がDMNを活性化しやすい場所の提供につながります。外部の刺激が少なくない状態でありつつ、リラックスできる環境でもあることが創造的思考を促進します。■自由なアイデアの発想
社員がリラックスし、他のメンバーとのコミュニケーションが活発化する環境にすることで、DMNが活性化しやすくなり、クリエイティブなアイデアが生まれやすくなります。■コラボレーションとDMNの連携
メンバー間のコラボレーションが促進され多様な知識が共有されると、その蓄積された知識をもとにDMNが活動することで、無意識のうちに新しいアイデアやクリエイティブな解決策が生まれる可能性があります。
DMNは、あくまでも脳内に蓄積された情報を活発に交信させるネットワークであり、無から有のアイデアを生むものではないと考えられますので、多様な情報が脳内にインプットされることが重要です。■集中とリラックスのバランス
クリエイティブオフィスは、従来のオフィスのような集中的な作業ができる場所だけでなく、リラックスした雰囲気も提供することで、社員が柔軟に集中作業とリラックス時間を交互に過ごせる状態となり、DMNが活性化しやすく、クリエイティブなアイデアがうまれやすい環境を構築しています。このように、クリエイティブオフィスが提供するオープンでコラボレーションが奨励される環境は、脳のデフォルトモードネットワークと連動して、クリエイティブな思考、発想を促進する大きな要因となり得ます。
Ⅶ.おしゃれの先にある「インタレスト」なクリエイティブオフィス
このように令和の時代のビジネスの場であるオフィスにおいては、創造的なアイデアが生れやすいクリエイティブなオフィス環境が求められています。
PREMIUM OFFICEシリーズの各拠点では、おしゃれなデザイナーズ・シェアオフィスとして、スタイリッシュでカフェのようなリラックスできるインテリアとなっていますが、上記でみてきたとおり、おしゃれさだけを追求する「デザイナーズオフィス」ではなく、おしゃれの先にあるクリエイティブな環境を目指して、「INTERESTING DESIGN」という試みを行っています。
五反田のレストエリアのようにリラックスするためのレストエリアに、「アート思考」をテーマとしたアイテムを展示することは、一見、ぼーっとするためのDMNの時間を邪魔するようにも思われるかもしれませんが、DMNと言えども、無から有は生まないようですので、コミュニケーションにより得られる情報と同じように、新たな発想を生むために役立つもの、特にリラックス状態でも簡単にスーッと受け入れやすい、いわば、紅茶を飲みながら楽しめて、無意識のうちに右脳を刺激するような「インタレスト」な装飾展示の試みを行ったものです。
PREMIUM OFFICEシリーズのデザインは、このように、「おしゃれ」の先にある「インタレスト」な仕掛けを組み込むことによる、クリエイティブオフィスの環境創りを目指しています。